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海外教育レポート

2009年8月15日

第20回 くすりの学校教育 海外レポート ~アメリカ~

アメリカは薬物乱用が大きな問題となっており、なんと学校では驚きの対策がとられているところもあります。ヨーロッパとは傾向の違うアメリカの状況をお伝えします。

超現実的な面もあるアメリカのくすり教育(前半)
               くすりの適正使用協議会海外情報コーディネーター 鈴木 伸二



年齢層で異なる用途


 海外のくすり教育に関する現状を正しく理解することは意外に簡単ではない。特に、くすり教育に関する制度、指針などがある時点だけのものなのか、それともその時点以降、現在に至るまで連綿として継続、施行されているものなのか、さらにそのような制度などがその国の全国規模で均一に施行されているものなのか、あるいはその内容が推薦,勧告のような形であり、必ずしも全国的に施行されているとは限らないものなのか、などの判断が極めて難しい。また、キャンペーンとして展開されているものは意外に継続性がないのが普通である。このような困難さはアメリカのような広大な国ではなおさらであり、さらにそれぞれの州によってはその制度、対応が異なるような場合もある。どのような教育が何処でどの程度実施されているかについての情報を厳密に把握するには単なる文献調査のみでは不可能であり、現地での実地調査が必要だと痛感させられる。


尿検査がドラッグ乱用の間接予防につながる


 アメリカでは青少年の薬物乱用が大きな社会問題になっており、その結果、本来ならば医薬品を意味するdrugsという単語も一般社会では乱用対象のくすりを意味するようになっているため、通常の概念での治療を目的とした医薬品を意識して表現する場合にはdrugsをmedicinesやmedicinalsという表現に置き換えられるのが普通である。例えば、薬剤疫学も当初はdrug-epidemiologyの表現が使われていたが、その後まもなくdrugがギリシャ語由来のpharmacoに置き換えられてpharmaco-epidemiologyに改められたのもそのような背景があったからである。
 なお、アメリカのくすり教育に関連して特記すべきことはいわゆるドラッグ類(大麻、コカイン、アヘン、アンフェタミン、フェンサイクリジン)の使用を予防する目的で、生徒たちの尿検査を随時試行することにより、生徒のドラック使用を実際に予防することができることである。また、ドラッグの乱用はアメリ
カ学校社会での大きな問題の一つであり、「ドラッグ使用テストプログラムを始めてみよう」という運動(What you need to know about Starting a Student Drug-Testing Program, 2004)が開始されていることも特筆すべきことである。これは全国ドラッグ・コントロール政策局(Office ofNational Drug ontrol Policy)が2004年に音頭をとって開始され、現在に至っているものである。

従来、ドラッグ・テストはスポーツ選手を対象にしたドーピング・テストの一環としてドラッグ使用の有無の検査がなされるものと理解されていたが、2002年に連邦最高裁判所が公立の中学校、高校の生徒の放課後のいろいろなクラブ活動、集会などに際しても必要とあればドラッグ・テストを行うことができることを公式に認めて以来、その実施の良し悪しに関して社会的にもいろいろな議論が交わされている。一方、現実にはそのような拡大されたドラッグ・テストを導入した学校ではその後のドラッグの使用が生徒の間で減少することが報告されており、さらに同じ学校でその後このテストが一時中断された二年間の間にドラッグ使用が再び増加したことからもこのプログラムの有効性が証明されている。このドラッグ・テストの学校での運用は不定期にクラスの一部の生徒を無作為的(例えば、くじ引き)に数人指定して尿検査を行うことによりなされている。検査対象生徒の人選は極端に言うとゲーム感覚でなされているといっても過言ではない。ただ、このようなテストはドラッグを使用している生徒を罰するのが目
的ではなく、たとえ尿検査が陽性であっても罰則を科さずに、カウセリングなどを通じてドラッグ使用をやめさせるようにすることが最終目的になっている。つまり、ある意味ではこのドラッグ・テストは広義のくすり教育の成果を間接的に確かめる一つの手段として捉えることができるかもしれない。また、そのようなテストを随時学校内で実施することは生徒のドラッグ使用の予防にもつながることである。
 しかし、いずれにしてもこのようなテストは現時点では日本や欧州では社会的、法的な観点から取り入れることはほとんど可能性がないと考えられる。見方を変えれば、「そのようなドラッグは身体に害があるから使うことはやめましょう」、「そのようなドラッグへの関心をもたないようにしましょう」、などの普通われわれが考えているくすり教育は概念的なものであるのに対して、このようなアメリカのテストは現実の使用実態を把握することにより正しい理解を得るように努力するステップにまで到達していることと理解することもできる。


いかがでしたか?日本では考えられないドラッグ・テスト。次回はより「医薬品」に関連する施策を幾つか紹介します。


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