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海外教育レポート

2008年1月1日

第12回 くすりの学校教育 海外レポート ~ドイツ~

ドイツのくすり教育は、3つの観点ですすめられることを前回紹介しました。今回から次回にかけては、生徒自身の「痛み」に対して、その3つの観点から、先生と生徒がロールプレイングの手法を活用し、状況に応じた対応策を考えさせる試みをご紹介します。
今回は、少年がサッカーの試合中に怪我をし、その「痛み」をおして試合を続行するか、あるいはやめるかの二つの観点から、「痛み」に対する理解を深めていく例をご紹介します。次回は、少女の思春期特有の悩みによる頭痛を例として、痛みにもいろいろな種類があることを理解させていく例をご紹介します。


生徒同士がお互いに討論しながらくすりに対する理解を深めていく 
               くすりの適正使用協議会海外情報コーディネーター 鈴木 伸二


 前号で、ドイツのくすり教育の特徴として3つの観点−「自己管理」(Selbstkompetenz),「社会管理」(Sozialkompetenz),「問題管理」(Sachkompetenz)−から、くすりに対する理解を深めるように行われていることをレポートした。今号では実際に、そのくすり教育が教育現場でどのように進められているかを紹介する。今回紹介する方法は、先生が生徒に対していろいろなテーマについて質問をし、それに対し生徒たちがいろいろな答えを出し、その答えを題材として、先生がコメントを加えたりして最終的にそれぞれのテーマを総合的に理解する仕組みとなっている。5~6学年(13才前後)で行われている「痛み」をテーマにした例を紹介しよう。


サッカーの試合中に足が痛くなった 
 
 最初に健康であることと病気であることの意義を理解させてから、「君たちのなかでどんな病気のときにくすりを必要としたか」との問いに対する答えを考えさせ、グループ毎に用紙にその答えを三つ書かせる。そして、それぞれのグループからあがってきた病気からひとつの病気を選択させ、それに対するくすりのことを自由に討論させ、そのくすりはどのようにして作られるのか、その名前はどのようにして選ばれるのか、くすりの宣伝はどのようになされているのか、その値段は適当かどうか、などを生徒なりの考えに基づいて討論させる。最終的には、どのような役割をくすりがしているのかを認識させる仕組みになっている。そのひとつの例として、ここでは「痛み」をテーマにした取り組み方を取り上げてみた。そのやりかたは、あるシナリオを先生が読んでそれに対して生徒がいろいろな討論をするというものである。

[シナリオ]: 
フランクが父親と一緒に運動場に行き、フランクの友達と一緒にサッカーの試合をしていたが、ボールが足に当たり、痛みを感じたので、父親にそのことを告げたが、父親はフランクの足をみて、まあ、たいしたことはないからサッカーを続けるようにと言ったのです。しかし、フランクはその後も足の痛みが続いていたので、もうサッカーを続けたくないと父親に言いました。


 このような状況を踏まえて、生徒全員に、もし自分がフランクだったらどのように考え、どのように行動するかなど、それぞれの意見を書かせる。そして、それらの結果を踏まえて先生は、フランクはサッカーを続けるべきか、それとも途中でやめるべきかの二つの観点から生徒から得られた意見をまとめてみる。

 a)フランクはサッカーを「続けるべき」との意見を要約すると
   1) サッカーをしている他の友達を落胆させないため 
   2) 最後まで頑張って試合を進めるべき 
   3) 先生や見物に来ているフランクの父親を落胆させないため 
   4) フランクは最後まで試合を進めるべきだ

 b)いっぽう、フランクはサッカーを「やめるべきである」の意見の理由は           1) その痛みの程度が分からないから 
   2) もしサッカーをさらに続けるともっと悪くなるかもしれないから 
   3) 自分の健康は自分が責任を持って判断すべきである 
   4) チームの一員として充分にプレイすることが出来ないことはチームにとってマイナスになるから 
   5) 足の痛みを直ちに手当てすべきである


 このように意見を纏めながら「痛み」にたいする理解を深めていく。ここで、先生はこのような「痛み」の場合の対応策を生徒と一緒に考える。つまり、試合を中止し、足を冷やし、足を動かさないで安静にしておく、などの対応を説明する。つまり、ロールプレイングを生徒全員で行い、状況に応じた対応策を考えさせ、最終的に先生が全体を纏めて説明する。


 いかがでしたか、「痛み」を単に個人の現象としてのみ捉えるのではなく、サッカーの試合を見に来ていた親や友人の心理状態までを考えさせながら教えていく方法は、幼い頃から個人と他者を峻別し自我を大切にするドイツ社会ならではの学習だと感じますが、皆さんはどうお感じになりましたか。
 次回は進学や友人との関係で思い悩む少女と鎮痛剤の例を紹介していきたいと思います。ご期待ください。



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